東京地方裁判所 昭和36年(刑わ)4781号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕雑誌に「四億円の不正支出でテンヤ、ワンヤのM石油」と題してM石油の内情を暴露するような記事を掲載し、その文中で、M石油の傍系会社の役員を紹介するにあたり、「甲(代表取締役、O研究所所長、医師法違反の詐欺師)」と記載しただけで、他に、右甲が医師法違反の詐欺師であることを推測させるような具体的事実の記載がないときは、刑法第二三〇条第一項にいう「事実ヲ摘示シ」たものということはできない。
〔判決理由〕昭和三十六年十一月七日付起訴状一の名誉毀損の訴因については、雑誌「大道無門」の昭和三十五年十一月号には「四億円の不正支出でテンヤ、ワンヤのM石油」と題する記事があり、該記中「甲(代表取締役、O研究所所長、医師法違反の詐欺師)」なる字句のあることは明かであるけれども、同記事中には右甲につき医師法違反乃至詐欺の所為を推察乃至疑わしめるような記載はなく、これと何等関連の認め難い記載があるのみであり、M石油の内情を暴露するような同記事中に、その傍系会社である製紙株式会社の役員氏名を紹介記載するに当り、いわば肩書として右甲の氏名下に前記字句を附したに過ぎず、同記事中には医師法違反の詐欺師たる所以を推測せしめるような具体的な記載は全く認め難い、訴因自体においても右記事の具体的内容を引用摘示することなく、単に「O研究所所長、医師法違反の詐欺師と断定した文を記載した上」と摘示するに止まるのであつて、結局右「O研究所所長、医師法違反の詐欺師」との字句自体を以て具体的な事実の摘示があつたものと主張するに帰するものとしなければならないところ、このような字句も背景をなす事実と相俟つて具体性を持つものと解すべき場合あるは格別前認定のような背景事実として何等関連性の認め難い記事内容に鑑みれば、右字句は単に右甲に対する侮蔑的な判断を示したに止まると解するを相当とし、名誉を毀損すべき具体的事実の摘示と認められないから、結局名誉毀損罪の成立は認め難い。(恒次重義)